#2 Zone Theory③  ~アルティメットに共通言語はあるのか?!ゾーンのポジション解説とDの構築~

 こんにちは。ダーウィンのきよです。

 いつの間にか熱くなってきましたね。夏と言えば学生選手権、この状況でできない可能性も高いと思います。地区予選もあって全国規模になる大会は、学生にとって夏以外に無いので、それが無くなってしまうと辛いですよね。

 リーグごとに場所を変えたり、人数を最小限に抑える分散開催などができるのかはわかりませんが、これまでの頑張りや気持ちが報われる場が与えられることを願っています。

 

 前回まででゾーンDの基本的な型の話をしてきましたが、今回の記事では具体的にディフェンスの型からゾーンの形を模索します。

 

 

1.ポジション解説

 私は今まで、東西や学年などを超えて共通で使われているポジションの名前を聞いたことがほとんどありません。何かしら言いやすいように変えていると感じます。アルティメットの情報エントロピーの高さはここからきていますよね。未だに知らないポジション名を聞くことも笑。ということで、いくつか私の中での可能な限り通例的なポジションの名前で解説していきます。

 今回はカップを使ったゾーンにおけるポジションとして解説していきます。

  

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1人のストア役に3人のカップを作っています。

チェイス(英語ではrabbit / chase)

 このポジションは常にストアリングカウントを数えるマーカー役を指します。様々な考えがあるかと思いますが、私はこのポジションを学生でやってもらうなら上級生です。1年生や経験の浅い人をすぐに起用すると、これまでに話したディフェンスの型が総崩れしかねないからです。実際のチェイスは奥が深いポジションなのではないかと思います。ゾーンの型を覚えさせるためには、後述のサイドミドルもしくはカップが適切だと感じます(チーム状況により差はあります)。他の人がカバーに入りやすいことと、視野を培うことができるからです。

  

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チェイス

 囲っているポジションです。

 チェイスの役割は、「強いマーカー」と「カップ形成の調整役」だと考えています。まず、チェイスは常にマーカーになるので、ストアリングポジションがうまかったり、マーキングスキルが高かったりしないとだめです。初めて経験する人には、しっかり練習させてあげる必要があります。中高バスケやキーパー出身だと上手い印象です。

 カップ調整役としてのチェイスは、相手を囲うカップ形成のために、適切なポジションを取りながらマークに入らなければなりません。例えばこのような場合です。

   

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③の展開が通った時

 すぐにストアに入ろうとすると、味方のカップ形成を待たずに穴ができやすく、また、展開がしやすいです。

    

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まだカップが作れていないので合間が多い

 そこで一旦パスコースを防ぎ、他のカップが形成されるのを見越してストアに入ると、すぐに展開をされず、ハメ側でディスクを保持させることが可能です。

   

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②へのコースを防ぎながら、カップが整ったらストアへ

 チェイスは極端なことが一番しづらいポジションともいえるので、チームメイトのポジションを見ながら自分に近いカップのポジションなどを把握して動く必要があります。

カップ(場所や形によりMMミドルミドル/SDショートディープ)

 呼び方と認識の齟齬が生まれる悪魔の言葉が「MMとSD」です。これはゾーンによって呼び方が変わるため、共通の仕事として認識されていないことが多いです。何かいい呼称ないですかね。絶賛募集中です。

  

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カップです。

 このポジションは、型の中で出てきた「合間」をなくす役割を担います。VやWの型をもとに、ほかのメンバーとの型をうまく組み立て、相手のパスコースをふさぎます。こちらも後述しますが、首振りが一番必要なポジションです。

 カップは全体として、相手に運ばせたい方向を向いてプレスをかけます。体を出されたくないコースの方向にポジショニングしてふさぐことで、ハメ側への誘導をしやすくする狙いがあります。同じ方向にプレスをかけられるように意識統一しましょう。

    

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向かって左側のコースを体で切り、右へのプレスをかける

 カップでの注意点は、特に落差が挙げられます。パスコースとして出しやすいカップの形は「平行」です。そうならないことをめざしましょう。

 

③SMサイドミドル(これは結構な共通言語だと思います)

   

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ここの2人です。

 このポジションは、一番運動量を持ってほしいポジションです。また、首振りよりもコーチングが重要視されるポジションになります。詳しく見ていきます。

 SMというポジションは、ゾーンの両翼を担います。ゾーン全体が広がることも、狭まることも避けなければなりません。次の図を見てください。

    

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対角を捨てすぎ系

 ⑤のディフェンスがハメ側に近づきすぎると、ゾーンが狭くなりすぎて、捨て所としての対角にプレッシャーを感じなくなります。うまいチームはすぐにパスを出すでしょう。次のようなことも考えられます。

    

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対角見過ぎ系

 このような場合には、逆にゾーンが広くなりすぎます。仮にカップが何らかの形で抜かれてしまったときに、⑤の前のスペースで回されてしまう危険性があります。

 SMのポジション一つで、相手のパスコースの幅やビジョンが変わります。この調整を行える人員がSMには必要です。加えて、自分のいるサイドに来たらほかのカップとともにVやZの型を作ります。空間把握能力の向上とアルティメットにおいて重要な「コーチング(声だし)」を会得するにはもってこいのポジションです。

 コーチング(ラストの記事で書きます)の仕方は、ポジションであまりかぶらないようにすべきです。例えば、下の図のように、コーチングの決め事を考えて、声出しの人を固定すると良いです。

  

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声を出す人をあらかじめ決めると、聞く側も楽です

 外からの声出しもそうですが、中の人間が一番近いので、声出しの相手をかぶらせてしまうとゾーンが崩壊します。よくあるパターンはチェイスカップにしか外から声をかけてくれないパターンです。声をかける人が多すぎて「どっちに行けばいいの!!」と相手を怒らせてしまった、もしくは怒った人は少なくないでしょう。

④Dディープ

   

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最後の砦、そして全体を見ることのできる唯一のポジション

 これは2択で考えることが多いです。「全体を俯瞰して声出しができる人」か「奥の競り合いが強い人」です。後者の場合は、ゾーンのコンセプトがプレッシャー重視の場合に効力を発揮します。いわゆる「ブン投げ」防止です。

 ディープは全体を見て一番声を出さなければなりません。SMとは違い、チェイスから一番遠いポジションにあるため、先を見てSMとカップの調整指示を出していく必要があります。声出しは中の人だけに限らず、外の人もディスクとともに動いて出していくことが重要ですが、そのすべての始まりはDのポジションからの俯瞰にほかなりません。ですので、できればDの位置あたりからディスクを見れるような位置で、外からの人は声出しをすると良いです。

2.ゾーンの初期位置の話

 ゾーンのセット練習をするときなど、オフェンスは自陣近く、フィールドの真ん中からスタートすることが多いですよね。実際にプルをコート内に入れるために真ん中に集まることはよくあることなので、ここでは真ん中を一旦の初期位置として話をします。

    

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3-2-2の解説をします。

 今回はプレスをかける3-2-2という形を作ります。図のように、初期位置で注意すべきは前方5人のWの型です。後方の2名は中盤の2名と常にVの型を作るように意識します。この時に注意すべき大前提として「捨て所を決めておく」ことが挙げられます。型を体現することで守れるエリアは広がりますが、それは「コート上で一番出にくいパスコース」もしくは「リスクを伴うパスコース」を捨ててエリアの一角を切ることで可能になります。

 

3.捨て所の例

 捨て所にはいくつかポイントがあります。ディスクが真ん中もしくは両サイドなど、どこにあるかで捨て所は変わります。これはチームで統一の意識がないと、どこかのポジションの人が欲張ったり、守るべきポジションを放棄したりする結果につながるので要注意です。

①対角スロー

 例えばハメ側にディスクがあるとき、普段のマンツーマンオフェンスでも投げないような所は捨て所といえばわかりやすいでしょうか。つまりはロングレンジの巻きスローorハンマースローです。ここを考えなければ、おのずとハメ側へのプレスがかけやすくなります。

    

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リスキーで投げられないと思わせるポジションをとりましょう。

②ハンドtoハンド(サイドチェンジ)

 これはハンマーや巻きスローによる逆側のハンドラーへの一本出しのスローです。プレッシャーをかけていれば裏側への難しいスローなので、とてもリスキーです。このスローにプレスをかけるゾーンも存在しますが、特性によって変更していきながら対応することが重要です。

   

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ここにハンマーをライナーで投げられる人、良き

チェイスの切れるコース

 これはマンツーマンと同じで、マーカーで切れるコースは敢えてほかのポジションにあまりカバーさせないという考え方です。ゾーンにおいて「誰かの責任にする」というのは私の中ではご法度だと考えていて、実はその人の合間が抜かれる前からどこかに歪みができていると考えているからです。しかし、③のコースが抜かれるような場合は、それはチェイスの責任と言えるでしょう笑

 

4.ゾーンの基本形を考える

 それでは、これまでの型と捨て所を明確にして、ゾーンDのおよその基本形を考えていきます。条件は以下の通りです。

 

 ●ゾーンのコンセプトは相手にプレスをかけるタイプ

  せっかくやるなら回させるというゾーンよりも、失敗を恐れずプレスしまくるゾーンを選んだという前提です。

 ●ハメ側の捨て所はハンドラーへのサイドチェンジ、アンハメではストアの守るコースのロングシュート

 アンハメのインサイドシュートは、巻きスローになる可能性が高いです。そのため、一発でゴールに届かないことや、巻きのためディフェンスが戻りやすい、そして巻きなのでOBになる確率も高めです。

 ●ハメ側のチェイスは斜め45度より少し裏にマーキングする

  「裏」という概念は人それぞれなのでしょうか。これはチームによって統一するべきです。実際に声を出した人が考えている「裏」が、当事者の「裏」と違って止められなくなることはよくあるので、認識の統一が必要です。

  大体こんな感じで考えてみます!

   

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かならずプレスの意識統一をします

 まずはWからです。Wの形に配置します。残ったDのポジションを調整して、このような形になります。これが真ん中での基本形になりました。①~③がそれぞれハンドラーのレーンを切る動きに向きます。中盤の2人は前方3人との間で、Vの型を作るように落差と合間を埋めるように位置取ります。後方2人は動くサイドに合わせながら、中盤2人と協調していきます。

   

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ちょっと変わった形です

 ハメ側にいった際の図です。ここではZやVの型をうまくハメて考えていきます。常に気を付けることが、落差を付けてコースを狭めることです。⑥は⑦と前後関係を変えながら見ていって良いです。

 あくまで一例ですが、型を考えながら自分たちにあったゾーンを考えてみてください。考えるの楽しいですよ。

 今後の記事で、「意図的にスローを狩る考え方」について書こうと思っています。意図的に狩りどころを作れたらすさまじいですね笑。理論上は可能ですが、個人の技量やチームでの決め事などもあるので、今度解説を交えて記事を作成しようかなと思っています。

 

おわりに

 前回の記事で紹介した「5レーン理論」はサッカーのバルセロナFC元監督、現マンチェスターシティの監督である、ジョゼップ・グアルディオラ氏が考案したものです。アルティメットの、特にゾーンオフェンスで応用できないかと考えてこの記事を作っているのですが、次回その内容を書いていこうと思います。

 組織的なチームというのは、アルティメットでは「コンセプトが共有できているチーム」が通例ではないかと考えています。ですが本来の意味で組織的なチームは、見据えるゴールとそこまでの過程を同じ線上に統一できるチームだと思っています。

 大学から始める人が多いため長い期間で組織力を身に着けることが難しいのですが、今後中高の部活などに拡大した際に、名監督と呼ばれる人が出てきて、組織的なアルティメットを作り上げていくのではないかと妄想をしています。

 

 次回予告

 ゾーンOの型 ~45度を使う動き方~

 ありがとうございました。

 Darwin #2